日経225 自動売買の心をつかむための施策
必要なものを必要なときに必要な分だけまた、在庫は悪だという考え方を持っていれば、買い物をするときの行動も変わってくる。
たとえば、買おうとしているモノが「1コ100円」と「5コ400円」で売られていたとしたら、単価では100円と80円であり、まとめ買いしたほうが得な気がする。
しかし、結局は2コしか必要ではなく、3コが在庫として残ってしまって損をするなどということはよくあることだ。
この場合だと、2コで400円も払ったあげく、捨てる手間までかかっているのでまったくの無駄だ。
潰れる企業は、大量に仕入れたことで失敗していることが多い。
大量に仕入れても結局は売り尽くせないから、在庫がたまってしまって、でも代金の支払いはあるからにっちもさっちもいかなくなって、それで大安売りセールをして大赤字というパターンだ。
だから、多少高くついたとしても、単価が高いものを選んだほうが得することもあるということは常に念頭においておくべきだ。
かんばん方式と同じで、「必要なものを必要なときに必要な分だけ」買うというのが、結果的に見ればいちばんお得なのかもしれない。
社買のA氏は、目の前のワゴンを見て思わず顔をニヤつかせていた。
というのも、A氏が企画から仕入れや販売のすべてを担当した「秋の味覚ざんまい弁当」が大成功を収めたからである。
その日100コ仕入れた弁当は、お昼過ぎには売り切れてしまい、ワゴンはすっからかん。
このペースで行けば、1週間のフェア期間で500コという目標数字も簡単にクリアできそうだ。
そしてなによりも、今日の夕方には社長がフェアの状況を視察しに来店するのだ!社長がこの空のワゴンを見れば、褒められるだけでなく、ひょっとしたら昇給昇進のチャンスにつながるかもしれない-A氏はますます顔をニヤつかせた。
夕方、側近を引き連れて予定通りに社長が来店。
そして、A氏の期待通りに空のワゴンの前で足を止め、「おかげさまで完売御礼!」という張り紙を見ながら、「君、これはいつ完売したのかね?」とA氏に尋ねた。
それきた、とA氏は意気込んで、「はい、お昼過ぎには100コを完売いたしました!」と声を大にして答えたのである。
しかし予想に反して、社長は額に青筋を立ててこういった。
「ば、ばか者!君はなにを考えているのだ!」「えっ?す、すみません」「君は商売の基本がわかっとらんのか=‥」褒められると思っていたのに、いきなり怒鳴りつけられて、なにがなんだかわからないA氏。
いったい、なにが社長の逆鱗に触れたのだろうか?この章では、哀れなA氏が怒られた理由を考えながら、機会損失と決算書について見てみよう。
商売の基本は、チャンスゲイン(売り上げ機会の獲得)である。
どういうことかというと、つまり、お客さんが欲しいと思ったものを欲しいと思ったときに提供するということだ。
あたりまえのことのように思えるが、これがなかなかむずかしい。
たとえば、「ちょっとお腹がすいたなぁ」「夜道は寒いなぁ」というときに、駅前に屋台のラーメン屋がいれば、ふらふらと引き寄せられてしまう。
これなどは典型的なチャンスゲインの現場だ。
これが、お腹がいっぱいの人しかいないような場所だったり、真夏の真っ昼間だったりしたら、はたしてラーメン屋に客は入るだろうか?さおだけ屋やベッドタウンの高級フランス料理店が謎だったのは、このチャンスゲインを無視していたからでもある。
また、商店街が廃れて大型スーパーやショッピングモールに人が集まるのも、ひとつには大きい店に行けばそれだけ商品の種類・量が豊富で、欲しいものが欲しいときに手に入りやすいからである。
これもまさしくチャンスゲインだ。
チャンスロスしないための「目利き」さて、ここでA氏の話に戻ろう。
怒られた理由がさっぱりわからないA氏は、直接社長に聞いてみることにした。
「私のどこがいけなかったのでしょうか?」「それは、君がチャンスロスをしたからだ」「えっ?チヤ、チャンス、なんですか?」「チャンスロスだ!」社長のいう「チャンスロス」とはなんなのか?これは会計でいうところの機会損失のことである。
つまり、チャンスゲインの反対だ。
A氏は100コ仕入れて100コ売れたので喜んでいたが、もし200コ仕入れていたならば、120コ、150コと、もっともっと売れていたかもしれない。
お昼過ぎの段階で100コが売れたのだから、終日で200コを売ることだって可能だったかもしれないのだ。
A氏は、「完売御礼、在庫ゼロ」の状態にすることによって、この新たな売り上げの機会を失った、つまり「チャンスロス」したということなのだ。
社内的に使う会計である経営会計※では、このチャンスロスをきちんと数字で損失として計上する。
普通だったら売り切れは万々歳といったところだが、これが会計上では「チャンスロス」といいかえられ、評価されなくなるのである。
たとえば、売り上げが100コでもチャンスロスが50コならば、100マイナス50で、50コを売ったのと同等の評価しかされない場合もある。
これでは、なんのために100コ売ったのかわからなくなってしまう。
だから、もしA氏が商売人として社長から絶賛されたければ、予想される最大限の売り上げのプラス10%くらいを仕入れておく必要があったのである。
ただし、売り上げよりも少し多めに仕入れるという「目利き」は、どの商売でも非常にむずかしいことであり、仕入れ担当者のだれもが頭を悩ませているところだ。
ここでおさえておきたいことは、会計的な考え方からいえば、商品が余ることも怖いが、品切れすることも同じくらい怖いということである。
「完売しました、ありがとうございました!」などというのは、ありがたいことでもすばらしいことでもなく、そんなことをやっている暇があったら、どこかから新たに仕入れて、もっと売れということなのだ。
つまり、会社の会計は、全国の会社が比較できるように統一された基準で作る「制度会計」と、社内的に使い勝手がいいように作る「経営会計」という2種類のものを使っているのである。
この「経営会計」は、金児昭氏が提唱している用語で、一般的には「管理会計」と呼ばれている。
ただ、「管理」という言葉よりも「経営」といったほうが前向きに会計を使っている感じがするので、私は「経営会計」のほうがしっくりくる。
ちなみに、英語では「マネジメント・アカウンティング」という。
だったら「経営会計」のほうが正しい訳ではないか、と思うのは私だけではないはずだ。
このチャンスロスの考え方は、なにも商売に限ったことではない。
日常生活でも、この考え方を生かしたほうが得なことがたくさんある。
たとえば、そのむかし、私と友人が一緒に簿記3級を取ることになった。
そして、3級を取るならもう少し頑張って2級も同時に取ってしまったほうがいいとある人にいわれ、私は「よし、じゃあ2級も取るぞ」と頑張ることにしたのだが、友人のほうは「今回は2級はいいや」と3級しか受けなかったのである。
結局、私は2級と3級を同時に取ることに成功したのだが、友人はもちろん3級だけに合格。
その後、ジリジリと差がついていって、私が簿記1級を取った境に友人は2級を、私が会計士になった頃に友人は1級を取るといった具合であった。
別に自慢したいわけではなく、なにがいいたいのかというと、どうせやるならできる限り最大限まで目標を高めに設定したほうがいいということだ。
最初にモチベーションが湧いたこと自体がチャンスなのである。
そのせっかくのやる気、せっかくのチャンスをみすみす逃す手はない。
最初から、「簿記3級で十分だ」と思っていては、せっかくのやる気も有効に活用できない。
自分で自分のチャンスを制限してしまっている。
そして、目標の設定値が低いと、どうしても途中で「これくらいでいいか」と思ってしまう。
これは、自分ではある程度はやったつもりでいるからプラスだと思うかもしれないが、会計的にいうと明らかなマイナスなのである。
A氏のお弁当の話とまったく同じで、「完売御礼」「満買御礼」状態に満足していてはダメなのだ。
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